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固定刑
1あらまし
] 日本語 [
الحدود
[اللغة اليابانية ]
ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー
محمد بن إبراهيم التويجري
翻訳者: サイード佐藤
ترجمة: سعيد ساتو
校閲者: ファーティマ佐藤
مراجعة: فاطمة ساتو
海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)
المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض
1429 – 2008
報復刑と固定刑
②固定刑
● 固定刑とは:ある種の罪に関して、至高のアッラーに対する義務としてイスラーム法で定められた刑罰です。
● 固定刑の種類:
イスラームにおける固定刑には以下の6種があります:
① 姦淫罪に対する固定刑
② 根拠のない姦淫の告発罪に対する固定刑
③ 飲酒罪に対する固定刑
④ 窃盗罪に対する固定刑
⑤ 強盗罪に対する固定刑
⑥ 謀反罪に対する固定刑
これらの罪には、それぞれイスラーム法によって定められた刑罰があります。
● 固定刑が定められたことに潜む英知:
偉大かつ荘厳なるアッラーは人々にその崇拝とかれへの服従、そしてそのご命令の遂行と禁じられたことの回避をご命じになりました。そしてそのしもべの福利のために固定刑を定められ、かれの法を遵守する者には天国を、そしてそれに背く者には地獄をお約束されました。またその一方アッラーは、人の心が反抗へと傾いて罪を犯した時には、悔悟と罪のお赦しの請願という救いの扉を開いて下さったのです。
しかしもし人がアッラーへの反逆に固執し、服従を拒否してその聖域を侵し、人の財産や尊厳を侵犯するのならば、至高のアッラーの固定刑の実施によってその謀反を阻止しなければなりません。それは社会に平和と安寧をもたらすためなのです。そして固定刑は全て至高のアッラーからの、全人に対するご慈悲と恩恵です。
● 5つの絶対的権利の保護:
人間の生活は、5つの絶対的権利の保護のもとに成立しています。そして固定刑の実施こそはそれらの権利を保護し、維持するものなのです。
つまり生命は報復刑によって守られます。
財産は窃盗罪に対する固定罪の実施により、予防されます。
尊厳を守るのは、姦淫罪と、根拠のない姦淫の告発罪に対する固定刑の実施です。
理性は飲酒罪に対する固定刑の実施によって守られます。
また強盗罪に対する固定刑の実施は、平和と財産と生命と尊厳を保護します。
そして全ての固定刑を実施することにより、宗教と人生の全側面が保護されるのです。
● 固定刑の実施に関する理解:
固定刑は犯罪を抑止します。そしてそれでもって罰された者の罪を贖い、その罪悪の汚れと罪から清めてくれます。また罰された者以外の者が同様の罪を犯すことを、抑制する効果もあります。
● アッラーの固定刑:
固定刑というアラビア語にはそもそも「境界線」という意味がありますが、これは姦淫や窃盗など、アッラーがそれを犯すことを禁じられた領域の境界を示しています。このような「禁じられた領域」には姦淫や根拠のない姦淫の告発などの固定刑の他、アッラーがその量を定められた遺産相続率なども入ってきますが、このようにイスラーム法によって定められたものは任意に増減させたりすることが禁じられています。
● 報復刑と固定刑の違い:
報復刑が科される類の犯罪は、それを執行するにせよ、あるいは赦免するにせよ、被害者の遺族、あるいはもし被害者が生存中なのであれば被害者自身にその権利が与えられます。そしてその執行は、被害者側からの請願があって初めて統治者[1]が行います。
一方固定刑は統治者に任され、彼の元にそれが立件されたら最後、刑罰の撤回は許されません。また報復刑は血債という代替によって減免したり、あるいは見返りなしに完全赦免することが可能ですが、固定刑に関しては一旦統治者の下に立件されたら代替の有無を問わず赦免や執り成しをする余地は全くありません。
● 固定刑で罰される者:
固定刑は、以下の条件が全てあてはまる者にしか適用されません:
① 成人
② 正常な理性を備えている者
③ 故意にその犯罪を犯した者
④ 犯行時に意識のあった者
⑤ その犯罪が禁じられていることを知っていた者
⑥ ムスリムであろうとズィンミー[2]であろうと、イスラーム法に遵守することを義務付けられている者
1-アリー(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「(以下の)3種の者はその責任を問われない:睡眠中の者が目を覚ますまで。また年少者が精通を迎えるまで。そして精神的に健常でない者が正常になるまで。」(アブー・ダーウードとアフマドの伝承[3])
2-次のアッラーの御言葉:-私たちの主よ、私たちが忘れたり、あるいは誤ってしまっても、私たちをお咎めにならないで下さい。,(クルアーン2:286)が下った時、アッラーは仰られた:「ああ、われはそうしないであろう。」(ムスリムの伝承[4])
● 固定刑の執行を延期させることについて:
固定刑の執行はある種の事情によって、延期することが許されます。例えば戦役などイスラームの福利に関わる場合や、寒暑や病気など罪人自身の福利に関わる場合、また妊娠や授乳など罪人に関係する者の福利に関わる場合などにおいてです。
● 固定刑の執行者:
固定刑の執行はイスラーム法で治める統治者か、その代理人が執り行います。そして人の集まる場所で、ムスリムの一部の者たちが見守る中で行わなければなりません。尚モスク内では固定刑は行われません。
● マッカにおける固定刑の執行:
マッカにおいても固定刑と報復刑は執行されます。聖域であることは犯罪者を守りはしません。鞭打ち系であろうと拘禁刑であろうと、はたまた死刑であろうと、至高のアッラーの固定刑が科されたら、聖域かどうかを問うことなくそれは執行されるのです。
● 固定刑における鞭打ち刑の形:
使用される鞭は新しいものでも使い古されたものでもなく、罪人は衣服の上から鞭打たれます。また打つ場所は身体の各部に散らしますが、顔面、頭部、局部、打てば致命的であるような箇所は避けます。また女性の場合はアウラ[5]が顕わになったりしないように、衣服をきつめに着用させるようにします。
● 2つ以上の固定刑が科された場合:
姦淫を何度も働いたり、または何度も窃盗したりなど、固定刑が科される同種の犯罪を2つ以上犯した場合には1度の固定刑が科されるのみです。
一方姦淫と窃盗と飲酒など固定刑が科される複数種の犯罪を犯した場合、各犯罪に対して1度の固定刑が科されます。その際は軽度のものから始めることとなり、最初は飲酒、次いで姦淫[6]、最後に切断という運びとなります。
● 固定刑における鞭打ち刑の種類:
固定刑における鞭打ち刑の内最も厳しいものは、姦淫の刑です。そしてその次が根拠のない姦淫の告発に対する刑で、それから飲酒の刑です。
● 統治者のもとで固定刑が科される犯罪を自白することに関して:
誰かが統治者のもとで固定刑を科される犯罪を犯したと自白しても、その証拠がない場合、統治者はその者の罪を隠し、そのことについて追求しないでおくことがスンナ[7]です。
アナス・ブン・マーリク(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「私が預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)と共にある時、ある男が彼のもとにやって来て言いました:“アッラーの使徒よ、私は固定刑を科される罪を犯してしまいました。私に刑をお与え下さい。”しかし(預言者は)彼に何も尋ねませんでした。それからサラー(礼拝)の時間になり、男は預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)と共にサラーしました。そして預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)がサラーを終えると立ち上がって彼のもとに赴き、言いました:“アッラーの使徒よ、私は固定刑を科される罪を犯してしまいました。私をクルアーンでお裁き下さい。”すると(預言者は)言いました:“あなたは私たちと一緒にサラーしたのではなかったのか?”(男は)言いました:“ええ。”(預言者は)言いました:“アッラーはあなたの罪をお赦しになられたのだ。”あるいはこう言いました:“アッラーはあなたの刑罰をお赦しになられたのだ。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[8])
● 自他共に罪を隠蔽しておくことの徳:
罪を犯したらそれを明かさず、アッラーに悔悟するのがスンナです。また他人が犯した罪に関しても、その者が自らの放縦さを公にする者でない限り、それを隠蔽してやることがスンナです。こうすることで社会に醜聞が広まることを防ぐことが出来るのです。
1-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「私のウンマ(共同体)に属する者は皆、(自らの罪を)あからさまに公表してやまない者以外は(その罪を)赦されるであろう。(その罪を)あからさまに公表するというのは、ある者が夜中に罪深いことを行い、アッラーがそれをお隠しになられたまま朝を迎えたにも関わらず、“何某よ、私は昨夜こんなことをしたんだぞ”などと言いふらすことである。その主がそれをお隠しになられたまま夜を過ごしたにも関わらず、朝には自らアッラーの覆いを取り除けてしまったのだ。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[9])
2-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“信仰者の現世における苦悩を1つ和らげてやる者は、アッラーが審判の日の彼の苦悩を1つ和らげて下さるであろう。また苦境にある者に便宜を図ってやる者には、現世と来世においてアッラーがその者の便宜を図って下さるであろう。そして(現世で)ムスリム(の罪)を隠してやる者は、アッラーが現世と来世において彼(の罪)をお隠し下さるであろう。アッラーはそのしもべが同胞を援助する限り、彼を援助して下さるのである。”」(ムスリムの伝承[10])
● 固定刑の執行における執り成しに関して:
固定刑は血縁の近縁や地位の貴賎を問わず、執行されなければなりません。そして固定刑の罪状が一旦裁判官[11]のもとに届いたら、誰もそれを免除したり、無効化したりするために執り成すことは出来ません。また裁判官が執り成しを受理することも当然禁じられ、加害者側から固定刑の免除を乞うための賄賂を受け取ることなどは言語道断です。
姦淫や窃盗や飲酒などを犯した者から固定刑の免除のための賄賂を受理することは、大きな罪を2つ犯すことにつながります。つまり固定刑の無効化と非合法な財産の獲得という2つの罪、あるいは義務の放棄と非合法な物事の実行という2つの罪です。
アーイシャ(彼女にアッラーのご満悦あれ)によれば、(ある時)マフズーミー部族のある女性が盗みを犯した事が、クライシュ族を悩ませていました。彼らは言いました:“一体誰がアッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)に話(して執り成)すのだ?アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)の寵愛するウサーマしか、それが出来る者はいないではないか?”それで彼(ウサーマ・ブン・ザイド)がアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)に(その女性の刑罰を免除してもらおうとして)話すと、彼は言いました:「アッラーの刑罰において執り成そうというのか?」そして立ち上がり、説教してこう言いました:「人々よ!あなた方以前の者たちは、高貴な者が盗みを犯せば放免し、弱者が盗みを犯せば刑を執行する、などということをしていたために滅亡したのだ。アッラーに誓って。もしムハンマドの娘ファーティマが盗みを犯すようなことがあれば、ムハンマドは彼女の手を切るぞ。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[12])
● 死刑となった者に対するサラー(葬儀の礼拝)に関して:
報復刑であれ固定刑であれ、また裁判官の裁量による矯正刑であれ、死刑となったムスリムの遺体は洗浄され、葬儀のサラーをされ、ムスリムの墓地に埋葬されます。
一方死刑となった棄教者や非ムスリムの遺体は洗浄もサラーも行われず、ムスリムの墓地にも埋葬されません。ただ墓穴を掘り、そこに埋めるのみです。
● 犯罪はイスラーム法に沿った固定刑の施行なくしては終わることもなく、また社会がその悪から保護されることもありません。大半の国で施行されている人為的な法律に定められているような罰金刑や拘禁刑は、不正と迷妄、そして悪の助長の他の何物でもありません。
[1] 訳者注:イスラーム法で国を治める統治者のことです。
[2] 訳者注:ジズヤ税を支払い、その諸規定を遵守することを条件に、イスラーム法治国家に居住するムスリム以外の啓典の民あるいは非ムスリムのこと。
[3] 真正な伝承。スナン・アブー・ダーウード(4403)、ムスナド・アフマド(940)。文章はアブー・ダーウードのもの。イルワーウ・アル=ガリール(297)参照。
[4] サヒーフ・ムスリム(126)。
[5] 訳者注:「アウラ」とは人前で晒してはいけない体の部位で、男性のアウラはへそから両膝までで、男性に対する女性のアウラは顔と両手を除く全身ですが、その他にも諸見解があります 。
[6] 訳者注:これは犯罪者が未婚者の場合ですが、既婚者の場合であれば姦淫の刑罰はこの中で最も重いものとなるので、その執行は最後にまわされることになります。
[7] 訳者注:預言者ムハンマド(彼にアッラーの祝福と平安あれ)の示した手法や道のこと。ムスリムは可能な限り、彼のスンナを踏襲するべきであるとされています。
[8] サヒーフ・アル=ブハーリー(6823)、サヒーフ・ムスリム(2764)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[9] サヒーフ・アル=ブハーリー(6069)、サヒーフ・ムスリム(2990)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[10] サヒーフ・ムスリム(2699)。
[11] 訳者注:イスラーム法で裁く裁判官のことです。
[12] サヒーフ・アル=ブハーリー(6788)、サヒーフ・ムスリム(1688)。文章はアル=ブハーリーのもの。